幕末を生き抜いた名古屋商人に学ぶ

このサイトでは、北見昌朗著『愛知千年企業 江戸時代編』の全編をお読みいただくことができます。順次公開していきます。

序文

幕末の動乱を生き抜いた名古屋商人に学ぼう

 会社は潰してはいけない。潰してしまえば、社員が泣く。取引先に迷惑がかかる。関係者全員に悲劇が訪れる。

 特に潰してはならないのは老舗である。歴史を探究してみて、改めて思い知らされるのは歴史の重さだ。「ローマは一日にして成らず」というが、著者に言わせれば「老舗は一日にして成らず」である。長年にわたって続いてきた老舗は、それ自体がいってみれば歴史的存在であり、文化遺産である。先人が苦労して築いてきたものを壊すのは、罪深い。

 今、愛知県は大変な不況に見舞われている。平成20年(2008)、秋のリーマンショック以来、景気が急激に落ち込んだ。平成19年3月期連結決算で、2兆円という空前の営業利益をあげたトヨタ自動車は、平成20年度決算で8千億円を超える赤字に転落すると発表した。このトヨタショックの影響で、協力工場はすっかり仕事がなくなり、休業に追い込まれた。

 これからの時代をどう乗り切ったら良いのか? 著者はそれを探るために、歴史を辿ってみた。地元愛知県の商人史を辿れば、先人の知恵や勇気をもらえると考えたからだ。

 調べてみると、先人が経験してきたのは地震や大火、水害といった自然災害はもちろんのこと、戦争や恐慌などまさに困難の連続だった。

 「この不況は100年に1度だ」とも言われている。しかし、この言い方は本当に的を射ているのだろうか? 幾多の恐慌を経験した先人からすれば「何の、それしきのこと」と言われてしまうのではないだろうか?

 特に幕末は深刻だった。ペリーが来航し、コレラが流行し、物価が暴騰するで、まさにパニックだった。しかし、先人はその苦難にめげることなく、したたかに逆境を乗り越えながら生き抜いた。幕末という動乱期を耐え抜いて、今日まで脈々と生き抜いている老舗は少なからず残っている。名古屋商人のド根性は、遺憾なく発揮された。

 著者は、この愛知の商人史を著すにあたり「千年企業」というタイトルにした。千年続く会社になってほしいという願いを込めたものである。この「江戸編」に続いて「明治編」「大正編」も予定している。このシリーズは、脈々と続きながら発展している地元の企業を取材して回るもので、継続させる秘訣をお伺いして記事に載せたいと考えている。

 現代の愛知県民は郷土の歴史、それも経済史に関してどれだけ知っているだろうか? 残念ながら学校では郷土史を教えない。テレビドラマでも、名古屋が舞台になるのは信長・秀吉・家康の三英傑の場面ぐらいである。だからあまり知らない人が多い。著者はこの本を著すことで、愛知の人々にもっと郷土史に詳しくなって頂き、郷土に対する愛着や誇りを深めてほしいと願う。

平成22年秋
北見 昌朗

北見昌朗

著者

歴史に学ぶ経営コンサルタント

北見昌朗
(きたみ・まさお)

中学の担任が歴史の先生。弥生式土器が専門というだけに弥生時代は延々と――。授業は現代史まで届かず、受験には役立たなかったが歴史好きに。経営者となった今は「歴史に学ぶ経営」がテーマ。『愛知千年企業』は、江戸編、明治篇、大正編という3部作。災害や恐慌に打ち克ってきた名古屋商人のド根性ぶりを著す。桶狭間の合戦の武功にどんな恩賞が与えられたのかを調べた『織田信長の経営塾』(講談社)、『武田家滅亡に学ぶ事業承継』(幻冬舎)など著書多数。夢は65歳になったら勇退して全国の史跡を舐め回り、童門冬二氏のように本を書くこと。社会保険労務士。名古屋市出身。昭和34年生まれ。
北見式賃金研究所 http://tingin.jp/

明治時代編愛知千年企業 明治時代編はこちら

大正時代編愛知千年企業 大正時代編はこちら

ページの先頭へ戻るページの先頭へ