詐欺は、三井物産名古屋支店の会計係と、藤本ビルブローカー名古屋支店の社員とが共謀して行った。三井物産名古屋支店名義の約束手形を偽造して、愛知銀行や十六銀行から総額75万円を詐取した。
事件の結末も劇的だった。悪事が露見して、警察の手が伸びると、藤本ビルブローカー名古屋支店の社員は、かねてから馴染みだった愛妓を連れて大阪へ逃げた。旅館で心中しようとしたが、女が肯じなかったので、無理心中をした。もう1人の三井物産名古屋支店の会計係は、単独で郷里の山陰に逃げたが、間もなく逮捕された。
新聞は「75万円事件」と称して大々的に報道した。当時の名古屋新聞の記者は『七十五万円事件』と題して出版して、版を重ねた。また、劇化されて新守座で上映された。
なお、新守座は、本重町4丁目(現・中区錦2‐15)にあった。そこは現在、りそな銀行名古屋支店になっている。
三井物産は、事件解決のため、名古屋支店長を入れ替えた。新支店長は児玉一造といった。事件は、三井物産が賠償金を銀行に払う形で決着した。
なお、この時に名古屋支店長になった児玉一造は、三井グループの逸材だった。児玉一造は後年、東洋棉花株式會社を設立し、上海租界で莫大な利益を上げた。
児玉は、名古屋においても、大きな足跡を残した。児玉は、佐吉の紡績業進出も援助した。そのおかげで佐吉は巨富を得ることになる。児玉一造の実弟の児玉利三郎は、佐吉の長女愛子の婿養子(豊田利三郎)となり、後にトヨタ自動車工業株式会社の初代社長に就任した。
児玉の親戚が石田退三で、退三は児玉の口利きで豊田紡織に40歳過ぎてから入社した。
また、児玉の設立した総合商社トーメンは、かつて東証1部上場の企業になったが、豊田通商と合併し消滅した。
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